涙の出る穴を見つけた。

 この場所の全体が雲の影に入っていた。
うとうととして目がさめると女はいつのまにか、隣のじいさんと話を始めている。客はもうとうに散ってしまった。大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。天空が最初に全世界を支配した。死に顔の最も美しい死に方はなんであろうか。女は赤ん坊の腹を押しそのすぐ下の性器を口に含んだ。

朝の十時だった。
僕は多くの非難をわが身に受けることだろう。ひと思いに出かけてしまって、ほんとによかったと思っている。兵隊さんたちが大陸や南方から復員してかえってくるのを、見た人は多いと思います。それはおよそ善き時代でもあれば、およそ悪しき時代でもあった。かれは年をとっていた。エレベーターはきわめて緩慢な速度で上昇をつづけていた。炉辺にすわり、しかも個人的に親しい友人にむかって、自分のこと、一身上の問題についてくわしすぎる話をするのはわたしの性分にあわないことであるが、読者諸氏にむかって話しかけるとき、自分の過去の経歴を伝えたい衝動が今までに二度もわたしのこころをとらえた。世の中でいちばんかなしい景色は雨に濡れた東京タワーだ。毎日お昼どきに、僕は市庁舎公園のベンチにその青年の姿を見かけた。
恋をしたのだ。
長いあいだ、私は夜早く床に就くのだった。見知らぬ土地の話を聞くのが病的に好きだった。最初はそんなこと、誰も信じていなかった。押し寄せる雑兵を蹴散らす、戦国武将の気分だった。ぼくは病んだ人間だ……ぼくは意地の悪い人間だ。朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、
「あ」
と幽かな叫び声をお挙げになった。
ものうさと甘さがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重苦しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。

光で、目が覚めた。